2026年6月19日(金)、栃木県日光市の歴史ある名門「日光金谷ホテル」にて、ヒューリック杯第97期棋聖戦 五番勝負 第2局が行われました。
開幕戦を制して7連覇へひた走る藤井聡太棋聖(23)に、初タイトル獲得へ燃える服部慎一郎七段(26)が巻き返しを狙う大一番です。

第1局目は藤井棋聖の完璧な終盤の受け潰しで快勝。本局の勝負の行方は如何に?
当日の前夜の雷雨が嘘のように晴れ渡った日光の朝、先手番となった服部七段が選択した戦型は「相掛かり」。藤井棋聖を相手に初めてぶつける作戦でした。
定刻の午前9時、先手・服部七段の▲2六歩から対局が始まりました。互いに飛車先を突き合う相掛かりの進行から、服部七段は序盤早々に定跡を外し、用意の手なのか実戦例の極めて少ない未知の局面へと藤井棋聖を誘い込みます。
最初の火花が散ったのは、先手が▲7四飛と横に回って後手陣の歩を狙いに行った局面です。
藤井棋聖はひるまず△8六歩から飛車をぶつけ、穏やかな進行を選択するかと思われました。しかし、31手目に服部七段が放った▲9七桂という「異筋の端桂」から、盤上は急激に緊迫感を増していく。
角の利きを通したまま桂馬を活用するこの服部七段の勝負手に対し、藤井棋聖はすかさず△9五歩(32手目)と桂頭を攻めて真っ向から咎めにかかりました。
服部七段は▲3五飛と五段目に飛車を配し、浮いた飛車と桂馬が空中を舞うような身軽な攻めを展開。
昼食休憩明け、藤井棋聖もじっくりと力を溜めて△2三金(38手目)と力強く上がり、フットワークの軽い先手の飛車に圧力をかける。この空中戦を正面から受け止める体制を築いていきます。服部七段が▲9四歩(43手目)と香の裏を取って手筋の攻めを見せたのに対し、藤井棋聖は△9七歩成と応じ、盤上は一触即発の局面に達しました。
ここで、本局最大の分岐点となる応酬が訪れます。
服部七段は47手目に▲6六歩と、▲6五歩の突き出しを見据えてじっと力を溜める選択をしました。
局後に服部七段が「罪が重かったか」と何度も悔やんだのが、この▲6六歩でした。ここでは玉のコビン(玉の斜め上のマスで、特に相手の角によって狙われる可能性がある場所)を開けるリスクを背負わず、▲9三歩成と踏み込んで攻め合う変化を掘り下げるべきだった。
この一瞬の緩みを見逃さず、藤井棋聖が48手目に放ったのが△9二歩打というめちゃくちゃ渋い底歩でした。
一見すると自陣に低く屈服したかのように映るこの一着ですが、先手の「▲6五歩と▲9三歩成」を組み合わせた不気味な攻め筋を完全に未然に防ぐ、大局観に満ちた名手ですね。
この手堅いディフェンスによって先手の攻めが難しくなり、形勢の針はハッキリと後手の藤井棋聖へと傾き始めます。
焦る服部七段は▲5六銀(49手目)から▲4五銀と、玉の堅さを犠牲にして敵陣に迫ろうとします。しかし、藤井棋聖は冷静に△8型と(52手目)〜△9九香成と攻め合いを挑み、先手陣のキズを的確に突いていきました。
服部七段は55手目に▲6八銀と攻めたい気持ちを抑えつつ自陣に手を入れる辛抱を見せますが、逆にこれが致命傷となります。
56手目、藤井棋聖が盤上に着手した△3五歩打が、本局を終わらせる決定打となりました。
この地味に見える歩の突き出しが、先手の飛車を完全に身動き取れなくさせる猛烈な一手でした。
服部七段の飛車は位置の悪さをずっと解消できぬまま、△2五香打(58手目)によってぴったりと捕獲され、なんと盤上中央で飛車が「頓死」してしまったのです・・・。プロでも対局で大駒の頓死を食らってしまうものなのですね・・・勉強になります。
飛車損という決定的な大差をつけられた服部七段は、額を押さえながらも▲5四銀(61手目)、▲7四角打(65手目)と必死に食い下がり、逆転への細い糸を探ります。
しかし、勝勢に立った藤井棋聖の指し回しは一寸の狂いもありませんでした。△4九竜(66手目)とスパッと一閃して先手玉を追い詰め、王手銀取りの△27角打(68手目)から確実にリードを広げます。
最後は、馬を自陣へ引き付ける△3六馬(80手目)を見たところで、先手玉は寄り筋、後手玉は安泰と大差がつき、服部七段が居住まいを正して静かに頭を下げました。
結果は80手までで藤井棋聖の快勝となった第2局。
服部七段の用意した「相掛かり+異筋の端桂」という独創的な空中戦を、藤井棋聖が驚異的な大局観の△9二歩で受け潰し、最後は△3五歩からの飛車捕獲で鮮やかに仕留めきった、王者の貫禄が光る一局でした。

これで藤井棋聖はシリーズ2連勝を飾り、棋聖戦7連覇の防衛へ向けて早くも王手をかけました。
後がなくなった服部七段ですが、その積極的で泥臭く食い下がる姿勢は、間違いなく次局への糧となるはずです。
運命の第3局は、7月1日(水)に静岡県沼津市の「沼津御用邸東附属邸第1学問所」で行われます。
藤井棋聖がこのままストレートで防衛を決めるのか、それとも服部七段が魂の将棋で一矢報いるのか。次局も盤上に没入しながら、全力で勝負の行方を見守ります!
《タカダ》
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