叡王戦五番勝負第5局~百川学海~
2024年06月23日
初のカド番からの防衛なるか、それとも勢いに乗って八冠の牙城を崩すのか ──
叡王戦五番勝負第5局が20日に山梨県甲府市「常磐ホテル」で行われました。
藤井八冠が強すぎて、久しく五番勝負の第5局目にお目にかかれなかったのですが、とうとうタイトル戦の最終局で勝った方がタイトルホルダーとなるという状況が現実となりました。
挑戦者の伊藤七段は、竜王、棋王と2度のタイトル挑戦者となって藤井八冠に挑んできましたがタイトル戦を含めて初対戦より10連敗と全く勝てない状況でした。それでも着実に実力を高め3度目となるタイトル挑戦をこの叡王戦で果たしました。
第1局はやはり藤井叡王の壁が高く厚く、連敗を伸ばす形となってしまいましたが、第2局目では初勝利を挙げ、続く第3局も勝利し藤井八冠にタイトル戦初のカド番に追い込みました。しかしやはり絶対王者の壁はそう簡単には破られず、4局目は何もさせてもらえないまま敗戦、そしてこの最終戦に至ります。
安定性を増した藤井八冠に唯一迫れる棋士、伊藤七段が同学年の絶対王者に初のタイトル戦防衛を阻止することができるのか。
最終局は振り駒となり、先手は藤井叡王となりました。デビュー以来先手勝率約9割。これだけでも対戦相手に絶望感が漂いますが勝負は終わってみないとわかりません。
さて、戦型は角換わりとなりました。今シリーズ通しての角換わりは深い研究が進んでおり、詰みまで定跡が研究されている戦型となります。日々最新型が現れては研究される非常に勢いのある戦型です。
お互いの呼吸が合っているのか、まるで棋譜を並べていくようにテンポ良く進んでいき伊藤七段は右玉に、藤井叡王は穴熊に進みます。
お互い交換し合った角を投入し盤上はより複雑に動いていく。そしてまだ始まって一時間半で終盤の様相を呈した盤上にお互いの想定している局面は一体どこまで進んでいくのか・・・。
77手目、藤井叡王がいきなり銀をタダ捨てする強手を放ちます。一気に藤井叡王がギアを上げて攻め込みます。
そして持ち駒の桂さえもタダ捨てしていき飛車を転回していく。藤井叡王に銀桂をタダ捨てされて飛車さえも差し出してきたらその後の罠を考えてしまいます。
派手な強手でたちまち裸玉の伊藤七段が徐々に劣勢に・・・。
100手を超える頃には藤井叡王の勝ちも遠からず見えてきた状況となります。
104手目、伊藤七段がノータイムで指した7六歩に勝ちを確信した藤井叡王周りがざわつきます。
後続手の6六桂を見越して銀を上がった手がそれまで築いたリードを無くしてしまう一手でした。
穴熊の固さを信じて3四金と攻めを継続していればほぼ勝ちとなっていたのですが、そして極めつけの8六歩の突き出しに貴重な40分を費やしてこの歩を取り込んだ手に、伊藤七段の神がかった2手で先手のリードは後手のリードへと変わったのでした。
しかし、そのリードもわずかな差であり更に数十手のシーソーゲームが続きます。
しかし着実に藤井陣に攻め駒を作っていく伊藤七段になんとかして凌いで反撃に出たい藤井叡王。
そして131手目、まわってきた攻めの手番に5五に桂を打って王手を掛けていくと思ったのですが、藤井叡王の選んだ手は6四桂打。
自力では勝利を掴み取ることが出来なくなった瞬間でした。
お互い一分将棋の中、伊藤七段は冷静でした。最後の王手ラッシュを仕掛ける藤井叡王を柔らかく的確に躱していく。
いつしか盤上には広い空間が広がり、伊藤七段の玉はもう捕まらない。
藤井叡王は肩を落として盤上を見つめ、静かに投了の声を発しました。
156手にて伊藤七段の勝利。
藤井八冠からタイトルを奪取した初の棋士であり、自身初のタイトル獲得となりました!
小学生の将棋大会で当時の藤井さんを負かして大泣きさせたその藤井さんにプロデビューを先越され、数々の記録を打ち立てていきあっという間に八冠となった同学年のライバルに少なからず焦りもあったと思います。プロになって公式戦でまったく勝てず、タイトル挑戦者となって挑むも勝てず周囲の声も色々あったことでしょう。しかし、百川学海、努力すれば報われることを自らを以って証明した伊藤新叡王に惜しみない拍手を贈りたい!
そして今後同い年のライバルとして更なる高みを目指して切磋琢磨していくことでしょう。
彼らの将棋物語はまだ始まったばかりなのですから。
《タカダ》
叡王戦五番勝負第5局が20日に山梨県甲府市「常磐ホテル」で行われました。
藤井八冠が強すぎて、久しく五番勝負の第5局目にお目にかかれなかったのですが、とうとうタイトル戦の最終局で勝った方がタイトルホルダーとなるという状況が現実となりました。
挑戦者の伊藤七段は、竜王、棋王と2度のタイトル挑戦者となって藤井八冠に挑んできましたがタイトル戦を含めて初対戦より10連敗と全く勝てない状況でした。それでも着実に実力を高め3度目となるタイトル挑戦をこの叡王戦で果たしました。
第1局はやはり藤井叡王の壁が高く厚く、連敗を伸ばす形となってしまいましたが、第2局目では初勝利を挙げ、続く第3局も勝利し藤井八冠にタイトル戦初のカド番に追い込みました。しかしやはり絶対王者の壁はそう簡単には破られず、4局目は何もさせてもらえないまま敗戦、そしてこの最終戦に至ります。
安定性を増した藤井八冠に唯一迫れる棋士、伊藤七段が同学年の絶対王者に初のタイトル戦防衛を阻止することができるのか。
最終局は振り駒となり、先手は藤井叡王となりました。デビュー以来先手勝率約9割。これだけでも対戦相手に絶望感が漂いますが勝負は終わってみないとわかりません。
さて、戦型は角換わりとなりました。今シリーズ通しての角換わりは深い研究が進んでおり、詰みまで定跡が研究されている戦型となります。日々最新型が現れては研究される非常に勢いのある戦型です。
お互いの呼吸が合っているのか、まるで棋譜を並べていくようにテンポ良く進んでいき伊藤七段は右玉に、藤井叡王は穴熊に進みます。
お互い交換し合った角を投入し盤上はより複雑に動いていく。そしてまだ始まって一時間半で終盤の様相を呈した盤上にお互いの想定している局面は一体どこまで進んでいくのか・・・。
77手目、藤井叡王がいきなり銀をタダ捨てする強手を放ちます。一気に藤井叡王がギアを上げて攻め込みます。
そして持ち駒の桂さえもタダ捨てしていき飛車を転回していく。藤井叡王に銀桂をタダ捨てされて飛車さえも差し出してきたらその後の罠を考えてしまいます。
派手な強手でたちまち裸玉の伊藤七段が徐々に劣勢に・・・。
100手を超える頃には藤井叡王の勝ちも遠からず見えてきた状況となります。
104手目、伊藤七段がノータイムで指した7六歩に勝ちを確信した藤井叡王周りがざわつきます。
後続手の6六桂を見越して銀を上がった手がそれまで築いたリードを無くしてしまう一手でした。
穴熊の固さを信じて3四金と攻めを継続していればほぼ勝ちとなっていたのですが、そして極めつけの8六歩の突き出しに貴重な40分を費やしてこの歩を取り込んだ手に、伊藤七段の神がかった2手で先手のリードは後手のリードへと変わったのでした。
しかし、そのリードもわずかな差であり更に数十手のシーソーゲームが続きます。
しかし着実に藤井陣に攻め駒を作っていく伊藤七段になんとかして凌いで反撃に出たい藤井叡王。
そして131手目、まわってきた攻めの手番に5五に桂を打って王手を掛けていくと思ったのですが、藤井叡王の選んだ手は6四桂打。
自力では勝利を掴み取ることが出来なくなった瞬間でした。
お互い一分将棋の中、伊藤七段は冷静でした。最後の王手ラッシュを仕掛ける藤井叡王を柔らかく的確に躱していく。
いつしか盤上には広い空間が広がり、伊藤七段の玉はもう捕まらない。
藤井叡王は肩を落として盤上を見つめ、静かに投了の声を発しました。
156手にて伊藤七段の勝利。
藤井八冠からタイトルを奪取した初の棋士であり、自身初のタイトル獲得となりました!
小学生の将棋大会で当時の藤井さんを負かして大泣きさせたその藤井さんにプロデビューを先越され、数々の記録を打ち立てていきあっという間に八冠となった同学年のライバルに少なからず焦りもあったと思います。プロになって公式戦でまったく勝てず、タイトル挑戦者となって挑むも勝てず周囲の声も色々あったことでしょう。しかし、百川学海、努力すれば報われることを自らを以って証明した伊藤新叡王に惜しみない拍手を贈りたい!
そして今後同い年のライバルとして更なる高みを目指して切磋琢磨していくことでしょう。
彼らの将棋物語はまだ始まったばかりなのですから。
《タカダ》
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