本のお話
2018年05月27日
腐蝕の構造
森村誠一
今回この本の題名のお話しではなくて
作家生活五十周年記念短編 【 ラストウィンドゥ 】
野崎正人が待ちに待った定年を迎えて、
平均寿命八十年を超えて、定年後に与えられた二十年以上の自由を、
自分だけのために使いたいと思った。
野崎は自由の第一歩として、身辺から始めた。
近隣から歩き始めると、意外に魅力的な街や風物が近くにあったことを知る
三十余年、日常の通勤路から毎日のように見慣れている車窓の風景であるが、
その風景の中に入って行ったことはない。
通勤途上の風景で野崎が最も気にかけていたのは、彼の最寄の駅からターミナル
までのほとんど中央部位にあるアパートに住んでいた若い女性を車窓から
『 がんばれ 』と、何の戦力にもならない応援をしていた。
数回、一方的な出会いを重ねた。
しかし、近づいてくるリタイア日に備えての残務整理にひっぱられ、
終電で帰宅途上、アパートは一点の燈火もなく、闇の底に沈んでいた。
それだけでなく昼間でも彼女の部屋の窓は閉ざされていた。
野崎は大いに気になったが、訪ねて行くわけにもいかず、気にかけながら定年日を迎えた。
定年後に、気にかけていた彼女のアパートへ足を向けた、アパートは健在であった。
彼女の部屋の壁のくぼみにメッセージが残されていました。
《 フジイ 》
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